晩秋

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*** 八神の告別式は喪主隆也で執り行われた。 依子は出席しなかった。 行けば、「よくも顔を出せたものだ」と罵られ 行かなければ「結局情のない女だ」と陰口を叩かれる。 依子は伯母山の部屋に自分の両親と兄を呼び、 八神のお別れ会をした。 遺影も何もない。 ただ一緒に暮らしたという思い出だけがあるこの場所で。 依子はただ、八神と共に見た景色を眺めていた。 脳梗塞の手術を終えたばかりの父親が言った。 「これが、依子の選んだ生き方だ」 依子は、伯母山のマンションを売りに出した。 お気に入りの部屋だった。 窓が大きく、 南に海、西に街、北には山が四季折々の姿を見せた。 それは、このマンションのこの高さからしか見えない景色。 『終の住処だと思っていたんだけどね…』 依子は、もう最後になるであろうこの景色をしっかりと記憶に刻んだ。 そして、彼女の後ろに待機していた若い不動産屋に鍵を渡して、言った。 『買った時は、億ションだったのよ。』 不動産屋は顔を引きつらせて、愛想笑いをする。 『6000万か…税金払って、父にお金を返したら私の分は残らないわね。』 誰もいなくなった部屋に、鍵を閉める音が響いた。 依子が毎日丁寧に磨いていた御影石の床は、しばらく暖房を入れてないせいか氷のように冷たい。 うっすら埃をかぶった床には枯葉が一枚取り残されていた。
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