終わらない日常

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下駄箱で靴を変えていると、忘れ物をしたことに気づいた。 あ、今日体育あるじゃん・・・。体操服持ってくるの忘れた・・・。 なんとも言えない気持ちになったけど、別に持ってても持ってなくてもどうでもいいことに気づいた。 どうせ出席日数なんて関係なくなるし。 そう思いながら教室へ向かおうとすると、後ろから思いっきり抱きつかれる。 「おっす、おっはよ!」 後ろを振り向かなくたって誰かぐらいはわかる。この声、この感触、この匂い、あと、この気持ち。 抱きつかれた腕にそっと手を伸ばし、今できる最大の笑顔を向ける。 「おっはよ、和奈。」 うまく笑えているかな。悟られないようにガンバなくっちゃ。 でも流石は親友、そんな作り笑いは簡単に見破られてしまった。 「どうしたの、元気ないじゃん。」 そういうと和奈は、抱きついていた腕を離して隣に並んだ。 何か言い訳を考えないと・・・。そうだ。 「体操服忘れた・・・。」 別に嘘ではない。ただそれが本当の原因ではないだけ。 すると何か見てはいけないものを見てしまったかのような表情を浮かべている女の子がそこにはいた。 ちょっと、可愛いお顔が台無しだよ。 「完全に忘れてた・・・。」 どうやら和奈も忘れてたらしい。 「だったら二人で見学だね。」 そう言いながら、心のどこかで喜んでいる自分と、悩んでいる自分がいることに気づいた。その時に気持ちを伝えるんだなっていう確証があったから。体育は今日最後の授業。だからそれまで引きずっていなければならない。 もちろん誰が決めたわけでもない。でも直感でそう感じる。 「えーやだ。また松やんに後片付けさせられるじゃん最悪ー。」 体育教師の松井先生は、いつも体操服を忘れた生徒に道具の片付けをさせる。おかげで体操服を忘れた時はいつも次の授業に遅れる。 でも今日は別いいの。早くケリをつけたい自分もいるけど、もっと長くいたいという自分もいる。 「和奈が一緒なら安心だ。」 本心と詭弁を織り交ぜた言葉を口にする。まだ言わない。本当に言いたいことは最後まで取っておくものだから。 すると和奈の表情には、私の大好きで大嫌いなあの笑顔が輝いていた。 「えへへ、嬉しい。」
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