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「あーあ、やんなっちゃうよ全く」
「重たいね・・・。」
和奈と文句を言いながら、バレーのネットやボールを体育倉庫に運ぶ。
松井先生も重いものは男子にやらせればいいのに・・・。
体育の授業中はいつものようにたわいない話で盛り上がった。来月のテストの話、体育祭の話、昨日のテレビの話、そして、これからの話。
「私、先生になりたいんだよね。」
そう言って夢を語る和奈の表情は、すごくキラキラしていて眩しかった。
どうなるかなんてわからない未来。でもその未来に希望を抱いている。
すごく憧れる。そしてそれと同時に自分には無関係なことなんだってこともわかった。
だって、私の未来には希望なんてないから。
体育倉庫のカゴに畳んだネットを放り投げる。
するとボールを片付けていた和奈が後ろから話しかけてくる。
「そういえば歩美の将来の夢って何?」
和奈にしてみればちょっと気になっただけだろうけど、すごく答えづらい。だってそんなの叶わないから。でも嘘をついて逃げ出そうとは思わない。今ここで逃げたら、もう言う機会なんてないから。
それに・・・最後だし。
「私のはね・・・多分叶わないよ。」
質問に答えてないのはわかってる。だって自分勝手だから。相手を困らせるだけ困らせてそこから逃げるんだもん。
ずるいよね。
でも安心して、和奈はこれから私のことを嫌いになるんだから。
嫌いになって、私がいなくなって、清々する。
これでいい。これが最善。みんなが幸せになれる。
「えーそんなすごい夢なの、教えて教えてー。」
後ろからまた抱きついて来る。
ごめんね。
その手を振りほどき、後ろを振り返る。
拒絶されるとは思っていなかったのか、和奈はキョトンとしていた。それでも関係なしに私は自分の気持ち悪い夢を語る。
「私ね、好きな人がいるの。その人に気持ちを伝えること、それが私の今の夢。」
なぜそれが叶わない夢なのか、和奈にはまだわからないらしい。
「なに、告白するのが恥ずかしいの?大丈夫だよ、私がついてるから。」
こんな時でも優しい彼女を思わずビンタしたくなる。
違うよ、気づいてよ。
そのアウェアネスでハッとする。
私はどうしたいの?
ただ気持ちを伝えて、逃げたいの?
わからなくなった気持ちをよそに、口は勝手に動く。
「違うよ、無理なの。だって・・・。」
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