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閑散とした署内に、一人の若い警官の愚痴が響いた。
「くそっ、
先輩っ! パトカー全部もってかれましたよっ。
矢崎さんが、こんな時にラーメンなんか食べてるからですよ」
署内のパトカーは、他の署員により既に出動されていた。
遼は刑事課のソファーに腰掛け、一人遅めの昼食にラーメンをすする矢崎警部補に詰め寄っていた。
「馬鹿野郎っ! のびたら食えなくなるだろう」
「まったく、相変わらずなんだから」
藤城遼は、恩師の前島警部の指示により、
所属の横浜県警刑事課から、東京都内の警察所へと期限付きの応援に出向いていた。
遼の先輩にあたる矢崎警部補は前島警部の剣道一番弟子らしく、彼から刑事としての技量を学べと、半ば強引に移動させられていたのだ。
食べ終えたどんぶりはそのままに、矢崎警部補の後を追う様に遼は刑事課を飛び出す。
「車、車っと、
仕方ないアレで行くかっ」
矢崎が指さした視線の先には昨夜、飲酒のうえ当て逃げ事故を起こし押収された証拠車両が停車している。
「いやいや、まずいでしょ。先輩」
そう呟いた遼だったが、自らの舌の根の乾かぬうちに助手席に乗らされていた。
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