第二章 ― 道しるべ ―

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 里桜の話によると、元々この店は小さな通信会社の社長が趣味と重役社員用の店として 開店した店だった。  昨年社長は高齢のため会長に退き、それをきっかけに息子である社長が新たな事業に出資したが失敗したらしく、現在買収を検討している別会社の傘下に吸収される準備中であった。 「じゃぁ、その女は、親会社の人間か」 「ええ、買収後に会社の資産を見直し不要なものは切り捨てるらしくて、今日ね、その会社の副社長夫人が視察に来てたの。実はさっきまで、その席に座ってたんだよ」  赤字にはなっていないものの、会長の贅沢な発案で開店した店など勢いのある親会社にとって残す価値など無かった。 「そうか……。 ちなみに何て会社だ?」 「ニーシマーケットコーポレーション」 「聞いた事ねぇなぁ」 「ニーシマーケット(隙間産業)…… 何処かで聞いたような……」 「よしっ、取り合えず、明日から毎日コイツ連れて寄るから里桜ちゃん元気出しなよっ」  矢崎と遼はそう告げると、閉店間際に店を出た。 「なんだか寂しくなりますね。 折角、里桜ちゃんとも仲良くなれたのに。 でも、凄いなあんなに若いのにこんなお店で会長さんに女将まかされるなんて」 「遼……、お前馬鹿か?」 「えっ?」 「彼女はその、会長のアレだよ」  矢崎は、遼に小指をたてて何かを伝える。 「えええええっ!」 「ゴンッ。馬鹿野郎っ、声がでけぇよ」  一人身でない遼にとって、一線は引くものの微かな恋心を抱いていた純粋な気持ち。 遼は心の中で呟いていた。 『トキメキポイント…… ひとつ、無くしてしまった……』
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