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武田の話によると、毎年多くの自殺者が存在する事実に目を背けず向き合い、自分達に出来る最後の手を差し伸べる行動を一緒に取り組んで欲しい申し出であった。
同席した、正輝や麻耶にも警視庁が集計した自殺統計のグラフを手に、懸命に熱弁を振るっていた。
その真剣な姿に、剛は固い決意を口にする。
「俺、誰かのために何かをしたい」
「ありがとう、有難う」
武田は、嬉しそうに剛の手を両手で握りしめると何度もなんども頭を下げていた。
「あっ、あの、
部外者で申し訳ないのですが、岩ちゃん、いや、剛のお給料とかちゃんと、その……」
「えぇ、勿論ですよ。
NPO法人故、高額なお給料は出せませんが、初任給で16万円はお約束します」
「16万円……」
想像通り安い給料に、剛の将来を心配する雅樹だったが、剛は振り切るようにお願いしますと申し出ていた。
学歴や資格など何一つない剛にとって、まずは就職することが第一の目標であり人助けをする事に生きる希望を見出していたからだった。
幾つもの書類にサインを済ませ、武田を見送ると3人で祝杯を交わす。
店を後にした武田は待たせていたタクシーへと乗り込み携帯を手に、時計を気にしていた。
やがて走り出す車内、武田の元に待ちわびた呼び出し音が鳴り響いた。
「プルルルルッ プルルルルルッ。
もしもし、武田です。
はい、今一人、若い上手くやりそうなヤツ手に入れました。予定通り何とかなりそうです」
この時、この男により剛が裏社会へと足を踏み入れたことに誰も気付く者はいなかった――。
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