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-その頃、木崎邸では。
昭「全く!あいつはどれだけ私に迷惑をかければ気が済むんだ!」
一之瀬奏(いちのせかなで)はイラついていた。
念願の捜査一課に配属されて12年。
様々な事件に携わってきた。
そして、事件被害者の家族を見てきた。
多くのものが嘆き悲しみ、犯人に怒りを覚えていた。
どんなに仲が悪い家族でも、仲が良いように取り繕ったりするものだ。
しかし、目の前にいる男、木崎昭蔵は違う。
取り繕うことも、悲しむこともない。
ただ、怒っている。
それも犯人にではなく、誘拐された息子にだ。
先程から息子に対して罵詈雑言を浴びせている。
なんてやつだ。
息子が誘拐されているというのに、自分のことばかり。
一之瀬は、今日何度目になるか分からないため息をついた。
木崎邸に誘拐犯から電話がかかってきたのは2時間前。
電話に出たのは家政婦の梅原妙子。
彼女はすぐに昭蔵に連絡した。
しかし、昭蔵は最初は悪戯だと思った。
それから数分後、運転手兼秘書でもある園山俊明(そのやまとしあき)が慌ててやってきた。
彼は昭蔵に仕えてから10年になる。
園山は動画を見て昭蔵に知らせに来たのだ。
動画の存在を知った昭蔵は驚愕した。
彼にとって50億円は払えない金額ではない。
しかし、出来損ないの息子に50億なんて大金を払うのは気がひける。
彼は迷っていた。
兄の誠治にも妙子によって誘拐の一報が入った。
彼はすぐに警察に連絡した。
昭蔵は警察に連絡した誠治を問いただした。
「なぜ警察に連絡したのか」と。
昭蔵にとって誘拐が他の人間の耳に入るのは避けたかったのだ。
しかし、誠治はこう言った。
誠「あいつは俺の大事な弟だ!」
誠治の電話を聞いた一之瀬たち捜査一課はすぐに木崎邸を訪れ、逆探知などの準備を行った。
もちろん、周りの人間や犯人に警察が来ているとバレないように。
彼の連絡がなくても動画によって誘拐があったことはすぐに分かっただろうが、家族から捜査要請がないと本格的な捜査は難しい。
だから、一課にとって誠治の通報はある意味有難いものだった。
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