木崎智哉という存在

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身代金の受け渡し時間まで残り2時間。 捜査一課の一之瀬は木崎昭蔵の経歴について調べていた。 彼は15年前に彼の父親、つまり木崎智哉の祖父から会社を受け継いだ。 彼はその手腕を存分に発揮し、会社を大きくしていった。 しかし、彼の評判はあまり良いものではなかった。 むしろ最悪だ。 少しのミスをしただけでも、「無能なやつはいらない」とクビを切り捨てる。 彼によって会社を辞めさせられた人間はたくさんいる。 恐らく100人は越えているだろう。 クビを言い渡された人間は路頭に迷い、家族共々夜逃げしたり、ホームレスになったり。 自殺をした人間もいる。 行方を探すのも一苦労で、手が回らない状態だ。 家庭についても決して良いものとは言えない。 昭蔵と妻の幸枝が結婚したのは25年前。 幸枝は木崎ファイナンスで働いていた。 上司と部下のような関係だった。 しかし、馴れ初めはハッキリしないが二人は惹かれ合い、そして結婚した。 その後、息子の誠治が生まれた。 この話を聞く限り幸せな家庭に聞こえるだろう。 しかし、昭蔵は相当なプレイボーイなようで、結婚後の環境の変化からか、または仕事のストレスか、とにかく女性遊びが激しくなった。 彼の愛人と噂される女性も少なくない。 社長になってからもそれは変わらなかった。 さらに、幸枝に対する態度も変わった。 幸枝を家政婦のように扱い、家のことを全て彼女に任せるようになった。 今や幸枝は彼の言いなりとなっている。 息子の誠治は有名大学に通う秀才だ。 大学での彼の人気は高い。 そのため、昭蔵は彼のことを溺愛している。 一方、もう1人の息子の智哉は、至って普通の高校生だ。 対した話題は聞かない。 というよりも、彼が木崎昭蔵の息子だということ自体、あまり知られていないようだ。 どういうことだろうか。 さらに気になるのは、木崎智哉と言う人間だ。 誘拐された時の声を聞く限り、緊張はしているようだが、恐怖を感じているようには聞こえなかった。 その上、助けを求めるわけではなく、「父の方を調べた方がいい」と言った。 まるで自分の命を投げ出しているようだ。 彼は一体どういう人間なのだろうか。
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