木崎智哉という存在

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一之瀬は木崎智哉のことをよく知るために、彼が通っている学校へ向かった。 彼は学校では普通の人間だったようだ。 特に目立つわけでもなく、だからといって地味なタイプでもなく、ごくごく普通の高校生だった。 ただ、やはり木崎昭蔵の息子だということを知っている人間は、担任と友人しかいなかった。 一之瀬は彼の友人である霧島幸一と本田桜から話を聞くことにした。 霧「智哉は『家族が嫌いだ』って言ってました」 一「家族が嫌い?」 霧「『嘘で塗り固められたあの家が嫌いだ』って。『あの家族は黒で塗りつぶされた闇の絵そのものだ』って」 幸一はそう言った。 …黒で塗りつぶされた闇の絵そのもの、か。 一「木崎くんが他に親しくしている人はいなかったかい?」 一之瀬は尋ねた。 桜「智哉くんが他の人と話してるのあんまり聞いたことないです。他にいるとすれば、近所のおじさんくらいかも」 一「近所のおじさん?」 桜の問いに一之瀬は首をかしげた。 桜「なんか『自分が描いた絵を気に入ってくれて、そこからよく話をするようになった』って。確か巽さんって言ってた気がします」 近所のおじさんか。 当たってみるか。 一之瀬は巽と言う人物に会ってみることにした。 霧「刑事さん!」 去り際に幸一に呼び止められた。 一「どうかしたかい?」 霧「あいつが見つかったら、俺たちに連絡くれませんか」 幸一はそう言った。 霧「あいつ、多分家族に会っても何も言わない気がするんです。『怖かった』とか、『不安だった』とか。親友として、そういうの真っ先に聞いてやりたいんです。お願いします」 桜「お願いします」 幸一と桜はそう言って頭を下げた。 一「…分かった。必ず連絡する」 一之瀬はそう頷いて教室を出た。 桜「…こーちゃん」 霧「うん?」 桜「智哉くん大丈夫だよね?」 霧「…大丈夫。きっと大丈夫だ」 そう言った幸一が強く拳を握っているのを、桜は見逃なかった。
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