木崎智哉という存在

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一之瀬は智哉が親しくしていたという人物、巽敬助の自宅に来ていた。 巽「お茶をどうぞ」 一「ありがとうございます。早速で悪いんですが、木崎智哉くんのことについてお聞きしてもよろしいですか?」 一之瀬は出されたお茶には手をつけず、早速話題を切り出した。 巽「彼とはどういう経緯で知り合われたんですか?」 巽「別に特別な出会いではありません。2年ほど前でしたかね。彼が家の近くにある公園で絵を描いてるのを見て、その絵があまりにも綺麗だったのでね。思わず声をかけてしまったんですよ」 一「彼が木崎昭蔵の息子だとは知ってましたか?」 巽「ええ、彼から直接聞きました。正直驚きました。何て言うんですかね。裕福な家庭に住んでるのに全くそんな雰囲気みたいなものを彼からは感じなかったんですよ。純粋というかなんというか」 一「彼の家庭については…」 巽「…私が言うのもなんですが、とても不憫に思いました。父親には認められず、母親にも助けてもらえず、兄を信じることもできない。彼は言っていました。『あの家では俺は死んでいるのと一緒だ』と。私も教師という仕事をやっていましたが、あんな寂しそうな目をした子供を見たのは初めてでした」 彼はそう言った。 巽「刑事さん。彼のこと、どうかよろしくお願いします」 彼はそう言って頭を下げた。 敬助の家から出た一之瀬はなんとも言えない気持ちになった。 一「(… 彼は絶対に助けないといけない。彼を待っている人たちのために。しかし、戻ってきても彼には家族としての居場所はない。これからも形見の狭い思いをすることになるだろう。果たして彼はそれを望んでいるのだろうか。)」 一之瀬は葛藤していた。 もうすぐ身代金の受け渡しの時間だ。 果たして一之瀬は人質を助けることができるのか。
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