身代金は目前で消える

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神明神社。 商売繁盛の神である恵比須様を祀っている。 境内には願掛け石があり、男性は左手、女性は右手で撫でると願い事が叶うという。 その神明神社の前にたくさんの人だかりができていた。 そしてその人だかりの中に一之瀬がいた。 彼の前には50億円がケースにも入れられていない裸の状態で置かれていた。 先ほど犯人から指示があったのだ。 「50億円をケースから出して鳥居の前に置け。そして離れろ。」と。 そんな状態で50億円が置かれていたら、普通は人がお金に群がりそうなものだ。 しかし、人というのは不思議なもので、あまりにも露骨に置いてあると逆に不審に思って近寄りたがらないものである。 結果、現在は鳥居の前に50億円がポツンと置かれている。 犯人が指定した時間まで残りわずか。 警官たちは緊張していた。 変装してはいるが、バレないとは限らない。 あくまでも一般人を装って周りを警戒している。 一之瀬も目を光らせている。 身代金の受け渡しの時刻まで残り1分を切った。 一之瀬は考えていた。 一「(犯人たちはどうやって身代金を受け取るつもりなんだ?いくらなんでも50億をそんな簡単に運び出せるとは思えない。それともやはり、犯人の目的は金ではないのか?)」 考えても明確な答えは出なかった。 そんな時。 数人の男たちが50億円の身代金に近づいてきた。 興味本意で近づいてきたのか、それとも盗もうとしているのか、どちらにしろ一之瀬たちは警戒した。 次の瞬間。 その男たちは懐から紙の入ったビンを取りだし、ライターで火を着けた。 一之瀬は直感した。 一「全員取り押さえろ!」 一之瀬が叫ぶのとほぼ同時に、男たちは火の着いたビンを50億円に向かって投げつけた。 ボウッ! 50億円に火が燃え移った。 一「誰か消火器持ってこい!水をぶっかけてもいい!何とかして火を消すんだ!残った者は犯人確保!」 一之瀬の怒号が響く。 しかし、火の燃え移った50億円はみるみるうちに燃えていく。 気がつけば、もう手をつけられない状態になっていた。 大きな炎が辺りを赤く染めていく。 火を完全に鎮火した時には、50億円はほとんど灰になっていた。
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