第一章 仔犬との出会い

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〈蓮3〉    とりあえず主任から一万円を借りてクリーニング屋へ行く事にした。マンションを出て左に行けばすぐに見つかると言われた。ついでにクリーニング屋の隣にあったコンビニにも寄る。下着と靴下、歯ブラシを買った。  そういえば朝飯がまだだったと思い、いつものようにゼリー状の栄養補助食品を手に取った。主任も要るかもしれない思って、これは二つ買った。  ぶかぶかの主任のスエットにぶかぶかのサンダル。小学生の頃に兄貴のお下がりを着せられた時のことを思い出す。  懐かしいなと思いながら主任のマンションに向かって歩いていたら、なぜか見覚えのある商店街が先に見える。  あれ、あれは駅の北口にある商店街だ。  ここは、住んでるアパートと駅を挟んで反対側だったということなのだ。商店街のアーケードより先には出た事なかったから気がつかなかった。主任の俺の住んでいる所は徒歩圏内だ。  『お兄さん、この先の国道工事中だね。駅の反対側だとかなり遠回りになるけどいい?』  タクシードライバーに確かそう言われた気がする。  「ああ、ここでいいですよ。駅の反対側ですよね、すぐですから」  そう答えたような気がする。いや絶対にそう言ったな俺。  それから、歩き始めてすぐに転んだ気がする。出られなくて、もう面倒で寝たかもしれない。  主任はいつも帰りは遅いし、朝は早いし、一度も電車であった事無かった。だから知らなかった、同じ駅から通っていたんだ。  「ただいま帰りました」  コンビニの袋からゼリーを出すと、主任が変な顔をして俺を見た。  「それ何?」  「ご存知ないですか?これは」  俺が説明し始めると主任は嫌な顔をして。  「そんな事は知ってる、そうじゃなくて今から飯食うのに何を出してるんだ?」  そう言われれば、何かいい匂いがする。
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