第五章 告白

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〈蓮45〉  「何の用?これから出かけるところなんだけれど」  俺の台詞は無視して、母親は部屋の中を探るように確認して回っている。  「先週末、帰ってきた時からずっと気になってたのよ。あなた今不倫でもしてるんじゃないかってお兄ちゃんが言いだすから。家から通えるのに一人暮らしするって、何かあるんだろうなんて言うんですもの」  そう言えばあの時、好きな人はいないって否定した時、変な空気になったのは覚えてる。まあ、男の人が好きだと言うのは普通とは言い難い。兄貴は半分冗談で言ったのだろう。それとも気になるところがあったのだろうか。  「出かけるってどこに?買い物なら一緒に行くけど」  「あのね、俺もう社会人。少し放っておいてくれないかな」  「社会人になったと同時に、独り暮らしします、援助も要らないって出て行くんですもの。心配でしょう?それっきりほとんど帰ってこないし。家の方が会社にも近いじゃない」  母親と言うのは、何故か常に自分が正義って顔してる。まあ、一人では家事もまともにできないのも事実。だからこそ家を出たと言うのに、本当に過保護だ。  「会社の先輩のところ、今日はそっちに泊めてもらうし」  「え?その先輩ってまさか女性じゃないわよね?」  「違う、違う。田上主任のところだから、もう良いでしょ。帰って、ね?」  外で待っているだろう主任が、気になって仕方ない。もう少しマメに顔出すからと母親の背中を押して、外に出てもらい荷物を急いで鞄に詰める。  あ、スーツどうしよう。持って行ったら月曜日の朝まで一緒にいられる。でも、図々しいかもしれない。呆れられるかもしれない。  念のため、そう。近いけど万一って事もある。念のためにスーツも持っていくだけ。詰め終わると意外と大きな荷物になってしまった。足りないより良いはずだ、多分。
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