第五章 告白

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〈匠45〉  気持ちが浮かれて、すっかり忘れていた。  そう、だよな。  あいつは普通の家庭に育って至って普通の人生送ってきたんだ。普通が何かにもよるけど、俺にとっての普通は世間では通用しない。  もしも、会社でバレてしまっても平気だと思えるのは俺だけだ。  上原はそうはいかない。  俺と別れる日がきたら、上原は世間の言う普通に戻るのだろう。  恋愛から結婚に発展することはない、だから去る時は追わない。これだけは常に自分に言い聞かせておかなくてはいけない。今は上原は俺の感情に押し流されて、周りが見えなくなっているだけかもしれない。  けれどそう考える、心臓を鷲掴みにされるようだ。  もしも、万が一その時が来てしまったら、手放せるのだろうか。  考えごとをしていたら、インターフォンがなった。その音が、ぐすぐすとした沈み込む感情の淵から俺を引き戻してくれた。  インターフォンに映るエントランスを見る、自動ドアの前ににこにこと笑う仔犬が待っている。  今は、この幸せだけを見ていよう。考えても仕方がないと、入り口の自動ドアのロック解除ボタンを押した。
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