第一章 仔犬との出会い

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〈匠3〉    仔犬をクリーニング屋にお使いに行かせた、靴下とシャツくらいなら洗ってやっても良いかとは思う。ひとつだけ不思議なのは、上原が上半身裸だったことだ。昨日の夜ワイシャツを脱がせる事はしたが、アンダーウエアは着ていたはずだ。  まさか無意識に脱がせてないよな?と少し不安になる。  ベッドの横に落ちているシャツを拾い上げ洗濯機に放り込んだ。炊飯器が電子音を鳴らす、米が炊けたようだ。  冷蔵庫のあり合わせで、簡単に味噌汁とオムレツを作る。高校の時から一人暮らしをしているから、一応の家事はこなせる。  外食は飽きるし、基本バランスが良くない。  二人分の食事の支度をするのは一年ぶりだなと思いながら食器を揃えていたらインターホンが鳴った。  モニターを覗いてにこにこと笑う仔犬の顔に自分の顔が綻ぶのに気がついた。つられて笑顔になる。インターフォンの横のボタンを押して、エントランスの自動ドアを開錠する。あいつは俺に向かって常にブンブンと尻尾を振っているなと思う。  さて飯でも食わせるかと思った瞬間に、ことんとテープの上に栄養補助食品が置かれた。食事の支度をしていた俺は何だかカチンときてしまった。勝手に作ったのに怒るのも変な話だが、腹が立ってつい強い口調になった。  叱られた仔犬は尻尾を丸めてシュンとしている。待てをして反省している上原を見て意地悪がしたくなった。  「飯作ったけど、お前は要らないようだから、俺は勝手に食うよ」  俺の台詞に半べそをかいたような顔になる。  時分の頬骨が少し上がっているのに気がつく。知らん顔してさっさと一人前の食事を並べる。  「あの、そのえっと。では、こちらで失礼します」  上原はテレビの前のラグの上にちょこんと座った。ああ、やっぱり面白い。  「冗談だよ、上原こっちに座れ」  声をかけると、ぱあっと顔を輝かせてテーブルに座った。  「おい、自分の分くらい自分でよそれ」  そう言うと、上原はぴょんと飛び跳ねるように立ち上がって台所へと向かった。  朝からこれだけ和んだ気持ちになったのは、どのくらいぶりだろう。
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