第六章 世間と言うもの

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<蓮48>  「蓮、一旦鍋の火止めてこっちこい。まだ、米炊けてないんだろう、炊き上がるまでここな」  膝をぽんぽんと、叩く主任がいる。  ええっと、それは……ものすごく恥ずかしのですが、主任。  恐る恐る近寄ると、ぐいっと引っ張られバランスを崩した。すとんと落ちるように主任の膝の上に座る形になってしまった。  「あ、あの匠さん危ないですから」  「ん?さて蓮質問な。何故、今日はお前はカレーを作る事になったんだっけ?」  ああ、やっぱり始まった。この前、山中さんから電話かかってきた後も主任の変なスイッチ入った記憶があるけれど、今も危機的状況にある。  主任の左手は俺の腰に回ったままだ、右手がするするとスエットの中に入り込む。  「えっと、どうしてでしょうかね?確か、匠さんが食べたいとおっしゃってたので、あっ、、ん……。止めて下さい!どこ、触って……」  「で、誰が誰に告白したいんだって?」  「ち、ちがいます。ですから、告白って、その……や、やめ」  主任は話しながら首筋を舐める、息がかかり、ぞくぞくと下から頭へと震えが上がってきて、何も考えられなくなりそうだ。  眼鏡を外されると、間近にある主任の顔以外何も見えなくなり不安と興奮が一緒にくる。  「お前のその顔が、その瞳が、俺は好きなんだけど知ってる?」  耳から入ってくる主任の声に頭の中をぐちゃぐちゃにかき回されて、隅で明日会社に行けなくなると警告を出している小人を飲み込んでしまった。  「どうしようか蓮。お前がのことが可愛いが、泣いてすがってほしい。矛盾しているな」  主任の話す言葉の意味も理解できないくらい頭が沸騰して、必死に主任の身体に縋りついた。「ああ、ご飯が炊けたんだな」と、聞こえてきた電子音に頭の隅っこが反応していた。
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