第六章 世間と言うもの

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<匠48>  上原と、ここ三日ほど過ごしてわかった事。歯磨きの時間が長いこと、寝起きに眼鏡が手元にないと慌てること、食事の作法が綺麗な事。  耳元で囁くと小さく震える事、体の稜線を辿ると体を少し縮めて泣きそうな顔になる事、そして好きですと言いながら果てる事。  そんな反応のひとつひとつが愛おしい。  新しい発見がひとつあるたびに、気持ちが深くなる気がする。  上原があの女子に告白しようとしたとは微塵も疑っていないけれど、誤解させるような態度をとった事に腹が立つ。  これが独占欲と言うのならそうなのだろう。誰にも渡したくない。人には執着しないと思っていたのは間違いだったらしい。  焦点の合わな目をみてゾクゾクとするのは俺だけでいい。他のだれにも見せない。  上原を泣かせていいのも、心から笑わせていいのも俺だけ。そう思う。  認めたくないけれど、最初に紹介されたその瞬間に囚われていた。  もう二度と苦しい思いはしたくないと思う気持ちが自分の心に靄をかけて見えないように、見ないようにしていただけ。晴れてしまえば、もう隠れる場所もない。  「蓮、脚開け」  服を脱がせていくだけで、溶けていく顔を見ていたらたまらなくなる。ついこの前まで歩けなかった赤ん坊がまるで急に走れるようになるように成長する。あっという間に快感に溺れる方法を学んでしまった。  何を言っても俺の言うことには素直に従う。泣きそうにな顔をしながら、じっと震えて待っている恋人を見ると苛めたくなる。こんな可愛い恋人を手放せるはずがない。  明日の事を考えると無理はさせたくない。けれどとりあえず一回は可愛くないて貰おう。  平日にここに帰すと上原の体持たないかもしれない。
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