第六章 世間と言うもの

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<蓮50>  主任の指が身体を滑るとその先に待っている感覚が身体中に蘇ってくる。こんなに自分が、人を近くに感じるなんて知らなかった。  初体験は遅そうだよねと、みんなに言われるけど高一の時。相手は三年の先輩だった。別に彼女の事が好きだったわけじゃない、ただ普通に興味はあっただけ。  先輩に身を任せてこんなもんかと思った、女性の体は柔らかいと思ったくらいだった。  特別な感情も何も起きなかった、それから何度か名前も忘れたその先輩の家で乗っかられた。単なる排泄行為だった。淡白だと前に付き合っていた女性にも言われた。  彼女の事は嫌いじゃなかったし、良い子だと思っていた。だけど、だんだん身内のような感覚になってしまった。  柔らかくもない、のっぺりとした主任の体に手を這わせるだけで、今まで感じた事もない感情が何度も何度も頭をもたげてくる。  もらっても、もらっても足りないそう思う。  身体中を埋め尽くして欲しい、主任を身体の中に感じると泣きたくなるくらい幸せだ。  これがみんなの言っていた「恋愛感情」なのなら俺は生まれて初めて恋愛をしている。  「蓮お前のその目、大切なのに滅茶苦茶にしてしまいたくなる」  耳から入ってくる主任の言葉はいつも頭の中を掻き回して暴れる。  もう今しか見えない。俺は頭がおかしくなったのかもしれない。
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