第六章 世間と言うもの

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<匠50>  台所から炊きあがったばかりの米の匂いがする。  ああ夕飯、そうだった。  このままだと上原に食事もさせないで、朝を迎えさせることになる。もともと細い上原がもたなくなる。  開かれた足の間に口づけすると、今までそんな経験がないのか驚いたように逃げようとする。  逃げる腰を自分の方へと引っ張り口の中へと含む。  「えっ、た、匠さんっ、それ、や」  表情をうかがうと言葉とは裏腹に瞳が誘っている。確認しなくても解っていた。上原は素直だ。  すぐに呼吸が荒くなり波に体を委ねる。艶めいた声で誘ってくる。  「たく、みさん、たくみさん」  シャツを掴んで俺の体を引き上げようと引っ張る。俺と上原、どちらが本当に追い込まれているんだかと可笑しくなる。  「蓮、少し待って、ね」  服を急いで脱ぎ捨てると、上原の体を横にする。見下ろして、その景色に改めてここがリビングだったと思う。  ラグを汚してしまったら洗濯が面倒だなと、頭の中の冷静な部分で考える。  「蓮、おいで」  上原の身体を引き寄せて口付けを何度も落とす。  「ああ、きもち……い」  小さな囁きが聞こえた。表情は見えなくても容易に想像できる。そしてその自分の想像に更に追い込まれてしまう。  今まで男を受け入れた事も無いはずの恋人は、何の躊躇もなく俺を深く誘い込む。俺はこの若い恋人に溺れている。  あっという間に持ち上げられて更に深い淵に落とされていくのだ。
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