第六章 世間と言うもの

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<蓮52>  主任と二人で生活を始めて一ヶ月が過ぎた。穏やかな日々に出会えたことに感謝する。  木下に俺の好きな人は山中さんじゃ無い、だからそっとしておいて欲しいと伝えた。  「え、まじか」と、頭を抱えて言われた。  それは佐野さん経由山中さんへ伝わったらしく、今は誘われる事もなくなった。まあ、それ以来変な絡まれ方をするようになってしまったのは仕方ない。  生活は主任のマンションでおくっている。たまに自分のアパートに郵便物を受け取りに帰る、と言うより主任のマンションに帰る前に立ち寄る。  その日は、郵便物の中に困った物を見つけた。従兄弟の結婚式の招待状。  おめでたい事だから喜ぶべきなんだが、その日程が問題。  十二月二十四日って、主任の誕生日だ。  ぜひパートナー同伴でと書かれている。クリスマスイブに恋人と過ごす一大イベントにするらしい。でもまさか主任と行くわけにはいかない。  パートナーがいない人は当日にカップリングすると書いてあった。これってどう主任に伝えたら良いんだ。  クリスマスは付き合い始めて最初の大きなイベント。なのにその日にいないなんて恋人としては最悪なのでなないだろうか。  そして……その理由を言えない俺も最悪。  家族に紹介できないと思っている自分が嫌だ。何と言えばいいんだろう。  母親は卒倒するだろう、あの人はいつも大騒ぎするから。  家族からどんな目で見られるんだろう。  そして、そう思っていると言う事は、自分が正しい事をしていると考えてはいないと改めてわかった。  その事実に気が付いて、悲しくて仕方なくなった。
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