第六章 世間と言うもの

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<蓮53>  昨日こそは伝えなきゃいけないと思っていたのに、主任はさっさと眠ってしまった。どうしたらいいのだろう。  何故かまだ主任は寝ている、普段の土曜日の朝は俺が起きられない。昨夜は何もなくて身体も心も寂しくて、朝早くに目が覚めてしまった。きっと疲れているのだとは思う。そっとしておくべきだろう。  そして、今日こそは実家に顔を出さなきればいけない。いとこの結婚式の事だ、パートナーはいるけど仕事で式には行けないと伝えなきゃいけない。  当日のみのパートナーも困ると伝えなきゃいけない。でもお前のその相手を紹介しろと言われたら、俺は紹介できるのだろうか。  とりあえず今はそこまで考えない。  主任にも言わなきゃいけない、誕生日に不在になると言う事実と、その事を言い出せなかった自分の本心も。  手紙なんて今まで書いたこともない。でもメールでは駄目な気がする。最後にちゃんと好きですからと、言葉を添えて手紙を書き上げた。  封をしてテーブルの上に置く、疲れているであろう主任を起こさない様にそっとマンションを出た。  実家に向かう電車の中で、もうあの手紙を読んでくれたかなと考える。主任に直接言えなくて申し訳ないなと思いながら。  「ただいま」  一ヶ月以上帰っていない、マメに帰るって約束したのに。まあ、仕方はない。週末のたびに動けないような状態だったのは事実。そのことは伝えられないけれど。  「今日はゆっくりしていきなさいね」  最初に母親に釘をさされた。
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