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<蓮6>
服はとりあえず買えたけれど、借りた一万円じゃ昼食代もほとんど残ってない。靴は仕方ない、とりあえず主任のサンダルを借りたままでいるしかない。
「上原、寿司で良いか?」
回転寿しなら何とかなる、まだ二千円は残っている。けれど、泊めてもらう予定の木下の家までの電車賃さえ残ればいい。夕飯は最悪、朝買った栄養補助食品もある。
「はいっ!」
主任について入った店は、回転寿司じゃなかった。値札がかけてない。ここは回転しない普通の寿司屋だ。主任はさっさとカウンターに座ると、おまかせで二人前と頼んでしまった。どうしたらいいんだ。
もう所持金はほとんどない。
「主任!す、すみません。あの」
本当に困ってしまい、お金がないと告げようとすると、主任がにやっと笑った。
「コートを選んでもらったお礼だな。ここは俺が払うから、今度社食で昼でもおごってもらおうか」
俺、もしかしたら主任にからかわれているのかもしれない。それでも寿司はおいしかった。そして、買い物も食事も全て楽しかった。主任と一緒にいる時間がこんなに楽しいとは思わなかった。
けれど結局、靴は買えないまま主任のマンションに戻ってきた。
今日一日の緊張と、はしゃぎすぎた買い物で、疲れていたのか主任のマンションに着くと眠たくなってきた。二人がけのソファに座るといつの間にかうとうとと眠ってしまっていた。
そして夢を見た。夢のなかでは、主任が優しく微笑んで、俺を見つめながら髪を優しく撫でてくれる。気持ちよくて主任の手に頬をよせる、そんな夢だった。
幸せな夢の中で、甘い匂いに包まれていた。
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