第一章 仔犬との出会い

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<匠1>  昨日の夜、面白いものを拾った。  土曜日を出張帰りの移動日として使うのは嫌なので、金曜日の最終便で無理して東京へと戻ってきた。  マンションのエントランスで鍵を探すために、一度スーツケースを下に置いた。ふと足元に目がいった瞬間に、側溝の蓋がとれている場所に見事に人間がはまっているのを見つけた。  「だから危ないと、管理組合に先週言ったのに」  呟きながら側溝に寝ている人影に近づいた。放っておいても良かったが、万一何かあった時には目覚めが悪い。仕方ないと、近くまで寄って驚いた。  「上原!お前、何をしてるんだ?」  「あれ?しゅにん?手ぇかひてくらさい、れられまへん」  呂律がまわっていない、何を言っているのかさえよくわからない。  上原は部下として課に四月から配属されてきた新入社員だ。いつも犬みたいにちょこちょこと大きな目で俺の後をついてくる。  話の途中にかかってきた客先からの電話が長くなってしまった時、「待て」をくらった仔犬みたいに忠実にそこに座ってにこにこして待っていた。  こいつ犬だなと何度か思った事がある。     
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