第四章 足踏み

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 仕方なく封筒を受け取り二人と別れた。あいつも幸せになって欲しい。部屋に戻るとまだあいつがいた形跡があちらこちらにある。洗面台や寝室に。  あいつのスーツケースに持ってきた着替えとパソコンだけ放り込む。それ以外の物はまとめてゴミ袋に放り込み窓を大きく開けて空気を入れ替えた。  ふと思い出して封筒を開けると一万円札と手紙が入っていた。「迷惑をかけてすまなかった。もう手放すつもりはない、今後一切心配ご無用」と書かれていた。  年寄り扱いして悪かった、まだまだあの人も雄の匂いをさせてたんだ。俺に頭を下げるのは相当悔しかったはず。  紺野も蛇に絡め取られたな。もうあいつの事は心配しなくていい。金曜日にきちんと俺の気持ちを上原に伝えよう。俺は図々しいんだ、たとえふられても同じ部署でやっていける。  高校の時の俺はそういうやつだった、いつの間に周りを気にするようになったのか。思い出させてくれた紺野に感謝すべきなのかもしれない。  いつもより早くベッドに入る、かすかに紺野の匂いがした。
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