第五章 告白

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第五章 告白

<蓮37>  木曜日の夜は緊張して一睡も出来なかった。布団にもぐって、寝返りを繰り返し気が付いたら朝になっていた。そして金曜日、変なテンションで出社する事になった。 「おはよう」  以前のように主任に軽く頭に触れられ、驚いて椅子から跳ね上がってしまった。その時にデスクの引き出しの裏にしたたか足をぶつけて音を立ててしまった。周囲の視線が集まる。  主任は今しがた俺の頭に乗せた新聞を脇に挟み、腕を組んだ状態でクッと小さく笑った。  なぜか表情が柔らかい、何かあったのだろうか。  「主任、あの今日ですが」  「上原、仕事早めに片付けて6時半に上がれるようにしておけ」  話し始めた俺の言葉は主任の言葉に上書きされて消えた。  「はい」  返事すると慌ててデスクに向かう。  仕事をしていると時間はあっという間に消えていく。気がつくといつの間にか、六時を過ぎていた。  デスク周りを片付けていつでも帰れるように準備する。取り敢えず食事をして、駅前のシャークスは会社の人が多いからどこか他にと考えていた。  「上原、終わったか?じゃあ行こうか」   主任がすっと立ち上がると、声をかけてきた。さりげなく行動する主任に慌ててついて行く俺、周囲の人は仕事の接待だと勘違いしているようだった。  「じゃあ」と山中さんの顔を見て主任がにっこり笑ってから手を上げた。何で山中さんなんだろう?  会社の前でタクシーを拾うと「帝都ホテルまで」と運転手に告げる。  「あそこのレストラン予約してあるから」  主任に言われて慌てて財布の中身を考える。ホテルのレストランって、どうしよう。そんな高いレストランに行く予定はなかった。給料日はまだまだ先。カードは使えるのだろうか。告白する事より先に財布の中身が心配で仕方なくなった。
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