夏夜ニカゲロフ

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夏夜ニカゲロフ

 夏は、暑い。  当たり前のことだが、こうして玄関から一歩外へ出た瞬間に、痛感する。自宅の表札「(いぬい)」にうっかり触ったら、火傷するかと思うほど熱かった。日差しが刺さる。湿気はさらに体の倦怠感を上げた。  ――サボろっかな。  頭にすぐに浮かんだ悪魔の囁きが、やけに大きく響いた。塾へ行くのは面倒だ。この暑い中、電車に乗って降りて、さらにわざわざバスに乗り、そこから―― 「あ、ソータだ!」 「げっ。カコ」  びしっとまっすぐな人差し指が、颯太に向く。高い声で目の前の道路から大声を出したのは、ビニールバックを肩にかけた子供だ。半袖から伸びる細い手足は、これでもかと日焼けしている。 「げ、ってなに。ひどくない?」 「ひどくねーよ。なにお前、プールか?」 「そう! 学校で、今日はテスト!」  テスト。プールの。懐かしい単語だ。これが古典や世界史ならおなじみで、毎度逃げ出したくなる奴だが。 「夏休みなのに、テスト?」 「そーだよ。最近の小学生は、忙しいんだから」     
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