夏夜ニカゲロフ

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 胸を張られる。おいおい、とちょっと呆れた。な~にが「忙しい」だよ、と。相変わらず……とてもよく回る口だった。なにしろ、言い負かされた事は数知れないくらいあるのだから。 「コッコちゃん、知り合い?」 「そう。まさかずの友達」 「まさかずってお兄ちゃんでしょ?」 「こーこーせーだ!」 「違うよ。じゅけんせいだよ」 「じゅけんせー……?」  喧しい。学校指定のポロシャツと学ランの黒ズボンに、じろじろと珍しそうな顔をしながら……いち、にい、三人分の視線が颯太に集まる。どんぐりの背比べ、みんな同じだけ日焼けをした、小学生だ。  確か、去年入学だったか、一昨年だったか……。  くりっと丸い目は子供らしくそろって無邪気だった。見知っているのは一人、真ん中でまだ指さしたままでいる、肩あたりにそろえられた黒い髪の女の子――カコ。弟妹のいない一人っ子の颯太には時々どうしていいか分からないが、多分よく懐かれている。  隣に引っ越してきてすぐの時は、こんなによくしゃべる子供じゃなかったはずなのに。成長とは恐ろしいものだ。  特に、ここ最近は。 「なんかちがうの?」 「じゅけんせいはね、ろーにんせーに進化して」 「おい」 「それで?」 「ヒキニートにジョブチェンジするの!」 「はあ!?」  思わず声が裏返った。ぐっさり刺されたせいだ。友達はへーそうなの? などと尋ねているが、断じて違う!     
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