夏夜ニカゲロフ

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 必死に叫んで手を伸ばした颯太に、ダメだよ、とたしなめる声が降ってきた。 「ソータ、まだ終わってないよ? 最後は何するんだった?」 「そんなっ」 「ちゃんとやらなきゃ、ね?」 「……」  体が、震える。震えながら、頭を下げた。勢いよく下げたから、ほとんど直角だった。 低くなった後ろの髪が、何かに触れた感触があった。はっとして、硬直する。  深弥子の、手だ――温度もない、触れるか触れないかの、重み。それでも分かった。 「カコちゃんと仲良くしてね。すごいいい子だから」 「なん……」 「私、毎日楽しかった。喧嘩もしたし、泣いたこともあったはずだけど……でも全部、楽しかったよソータ」  震えてもいない声が、泣いている気もしたし、笑っている気もした。  ばいばい、とかすれた呟きに、慌てて体を起こしたときには――人の影などどこにもなく。  追いかけるつもりで階段に足をかけたところで、えっと驚いて固まった。  そこには――賽銭箱の裏に寄りかかるようにして眠る、小さな女の子がいたから。
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