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地球のどっかに行ってた先生が、とんぼ返りしてくるし、取材陣で牧場ごった返すし、ももたろうさんがトトカルチョのおいしい買い方伝授しに来るし、ゲタりすが「もう一度サラの上に乗りたい」ってお願いに来るし、チョメ騎手が奥様のレームさん連れて、「新婚旅行の宿貸せや」って私の厩舎に無賃宿泊していくし、アサカハムハムが「牧場に穴掘らないで、チュー仲間が困ってる」って嘆願に来るし、もーたいへんっ!
てんやわんやな毎日を過ごすうち、走り込みもろくにできず、気がつけば出発予定の前日になってしまった。
そしてその夜。
カイザーが私たち二人に言った。
「今回は海外止めとこう。
まあ、なんだ。サトノダイエットも凱旋門賞敢えなく撃沈したし、無理してスペイン行くより秋の天王賞を狙おう。
……ボソッ、女子プロの方が儲かるかなあ。あ、でも秋天の後に転向の方が美味しいかも」
先生。
なんか今聞こえた気がする。
いや、まさか、ね。
「先生、なんか企んでる?」
「え。い、いーや何にも」
こいつ。キョドってやがる。なんか怪しい。
しばらく見張っとこう。
あー、でも。
「海外旅行、行きたかった」
「来年もあるからな」
「来年までお預け……」
ガックリ。
「まあ、もちっと経験積もうな。ミズキンダも引き受けたからにはちゃんと成し遂げろよな」
珍しくミズキンダがしょげていた。
私の初めての海外旅行は夢と散った。
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