温泉

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 街で聞いた温泉は、森の中に泉の様に湧いていた。  特に温泉街という訳でも無く、宿がある訳でも無い。  ただ、森の中にぽつりとあってこんこんと湯が沸き出ている。  湯の中には古い石柱が転がっていて、ここが昔はさかえた湯治場で今は遺跡として手つかずとなっていることが分かる。  壁の一部だったのだろうか、今は教会でしか使われていない文字が書かれている。  とはいえこの言葉もそれを使った魔術もすでにほぼ解読済みだ。新たな発見もなさそうなので休憩したら出発しようと思っていた。 「交代で見張りで風呂入るってもんだよな」  俺が言うと、二人は頷く。  じゃあ、まずユナからと思ったところで来客があった。  女性三人の旅人は友人同士の旅行とは趣が違う。  何より揉めているらしく、空気が酷く険悪だ。俺にも分かるという時点で相当に酷い状態なのだろう。 「失礼、そちらの方も勇者とお見受けしますが……」  アルクが三人の中央にいた金髪の女性に声をかける。  今までの無表情では無く、張り付けたような笑顔を向けているが目が死んでいるのは相変わらずなので、正直怖い。 「あら、あなたも勇者なのね」  金髪ちゃんは笑った。こちらも張り付けた笑顔が正直気持ち悪くて、何故こんな分かりやすく気持ち悪い表情をしてお互いには分かりきっているらしいことを確認しているのかが分からない。  アルクはこちらをチラリと見てそれから溜息を軽く付く。何故溜息をつかれたのか、よく理解ができない。  ただ、アルクは何も言うつもりは無いらしく、相変わらず下手くそな笑顔を貼り付けて金髪ちゃんに話しかける。
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