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「何かもめ事ですか?」
声は極めて優しい。そんな話し方をするところであって日が浅いものの見たことは無かった。
「お恥ずかしい話ですが――。」
金髪ちゃんはなんて事の無いように笑った。
けれど言っていることは、割とシビアだ。曰く、俺達とは違う国から魔王討伐を依頼された金髪ちゃんたち三人は旅に出たが、そのうち1人が足手まといになった。
だから、ここで分かれるか否かでもめている。
足手まといと言われた少女は未だ10代だろう。細い体を殊更縮める様にして俯いていた。
「何とか、私も連れていってもらえないでしょうか?」
腕と足にブーツカバーとアームカバーを紐で結び付け上着には独特の刺繍が施された服は北にある山岳地方の部族特有のものだ。
刺繍で細かい村まで特定できるらしいが生憎そこまでの知識は無い。
信仰にあつい部族だと聞いている。恐らく部族としてこの少女を推薦し勇者と旅をしているのだろう。
それが、例え生贄と同義であっても、それでも勇者に必要とされなくなったので帰ってきましたは通用しない。
俺が魔術師教会で一番いらない人間として推薦されたけれど、辞退する方法がまるでないのと一緒だ。
選ばれてしまえば他の生き方が無くなってしまう。そういう仕組みだ。
もう一人、恐らくご同業の女性が金髪ちゃんを心配そうな顔で見ている。前衛の勇者、補助的役割の魔術師、それから山岳部族は弓の名手と聞くので後衛というかなりバランスの取れたパーティである筈なのに何故ここまでこじれてしまうのか分からない。
「とりあえず、温泉に入らない?」
ユナが面倒そうに言った。
この中で唯一、生き方を縛られていないであろう彼女は心底あほらしいという顔で、もう、三人には興味がなさそうだった。
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