温泉

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 何故、勇者であるという事にここまでこだわれるのかが分からなかった。  魔術師にも資質というものはある。魔力量の多少は生まれつきの部分は大きいし、相性のいい属勢というやつもある程度は資質として持っている。  レアな能力を羨ましいと思うこともあるし、実用性の低い能力を蔑むやつもいる。  けれど、ここまで勇者という先天的要素で怒鳴る人間がいるというのは驚きだった。  アルクはもう一度溜息をついた。いや、お前がこの状況作り出してるんだよ。どうするんだよこれ。  手を握り締めて、小刻みに震わせている少女はそれでも今度は泣いてはいなかった。手は強く握りしめている所為で真っ白だ。 「私は、村から選ばれた時点で帰る場所はありません。 魔王を倒す旅を続けるしかないんです」  例え一人になっても、それで殺されることがあったとしても。  俺だったら一人なら間違いなく適当に逃げる。一人じゃなくても逃げることしか考えていないのに、少女は声を震わせながらそれでも言う。  これが戒律に縛られた人間なのだろうか。それともこの少女の元々持った気質なのだろうか。  それは分からないが、この小さな少女がとてもとても哀れな生き物に見えた。 「アルク、悪いな」  俺が、謝るとアルクは俺の意図に気が付いたらしくいささか驚いた顔をした。まあ、俺自身驚いているのだから当たり前だ。  面倒事は嫌いだし、人付き合いが苦手すぎるのでできれば一人でいたい。  けれど、この少女を放っておくことが出来なかった。
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