1659人が本棚に入れています
本棚に追加
/376ページ
***
温泉の脇で適当に服を脱ぎ散らかす。
横で同じ様に服を脱ぐアルクの体を見てぎょっとした。
勿論体は恐ろしい位鍛え上げられているのが分かる。それはドラゴンを倒した時の身のこなしからも予測出来ていた。
その話では無い。
彼の体には、無数の刺し傷と思われる傷跡があったのだ。
剣の稽古でついた物だとは到底思えない代物だった。
俺の視線に気が付いたのか、アルクははあと小さな溜息をついた。
「アンタ、勇者の魅了スキルがほとんど効いて無いみたいだな」
「魅了……?」
何を言われているのか分からなかった。
アルクの顔は整っていて、体も均整がとれていて、充分魅力的なのではないだろうか?同性の俺から見てもすげえなと思う。
それとも同性でさえも恋に落とすとかそういう奴だろうか、生憎俺は生まれてこの方同性に対して性的興奮を覚えたことは無い。
「いや、アルクは充分カッコいいと思うよ」
とってつけたように弁明すると、先程よりもっと深い溜息をつかれた。
「討伐の任命の時、俺は碌に話なんぞ、聞いて無かった。
だけどお咎め無しだ。その理由がわかるか?」
アルクは皮肉めいた言い方をした。
俺はそこでようやく、アルクの言いたいことを察した。
「俺ら勇者っていうのは、自動的に周りから、良き者として見られるようになっているらしい」
自嘲気味にアルクは笑う。
要はその自動付与の魅了が俺にはあまり聞いていないという事らしい。
「へえ、魔力量の多い人間には効きづらいとかあるのかもしれないな……」
だとしたらその関連性には大いに興味がある。
俺以外の人間には、アルクのむごたらしい傷を認識しづらくさせられているという意味なのだろう。
「それより、お前の体だって似たような物だろう」
俺の左胸から脇腹にかけての傷跡を見てアルクが言った。
「ああ。これは、まあ、魔術回路が暴走したっているかなんていうか」
正直あまり面白い話でも何でもないので、出会ったばかりの勇者様にするような話では無かった。
「とりあえず、風呂入ろう。」
上半身素っ裸の間抜けな恰好でするような話ではないなと俺は急いで身にまとっていた全てを脱ぎ捨てて、アルクの横を通り抜けて風呂につかった。
最初のコメントを投稿しよう!