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何故?と聞こうとしたところで、ユナに遮られる。
ユナは指を頭上少し左側に差して「一羽はもう戻ってきてるわよ」と言った。
それは、ナタリアを魔王討伐に派遣した国へ送った青い鳥だった。
右手を胸の高さにあげると再び鳥はとまる。背につけられた書簡を取り外した瞬間、さらさらと溶ける様に鳥は消えた。今回の命令が完遂されたためだ。
中身は俺では開けないらしい。金髪ちゃんに渡すとすぐに書簡が開く。
「確認通知みたいなものですね。
パーティ変更を受け付けたので以降そのようにとだけ。
陛下どころか大臣の名さえ無いなんて」
淡々と金髪ちゃんが言う。とりあえず、許可はおりた恰好らしい。
許可がおりないにしろおりるにしろ取り乱すだろうと思ったナタリアはとても冷静に状況を受け止めている様だった。
もう一羽は帰ってこない為、ここで野営をする事になった。
* * *
夜、ふと目が覚める。
一度起きてしまうと眠れない質なので、仕方がなく散歩に出る事にする。
夜風呂に入るのもいいだろうと温泉に向かって歩き出す。
魔術で出したランタン代わりの光を頼りに進むと、温泉には丁度ナタリアが居た。
とはいえ、入浴中では無いらしく服を着たままで足先だけ温泉につけていた。
彼女はうなだれた様子で、行かない方が良いことは分かっていた。
今日知り合ったばかりの人間ができることは何もないことも理解していた。
それなのに、一歩、また一歩とナタリアに近づいて行ってしまう。
案の定ナタリアは泣いていた。声を殺して、それでも殺しきれない思いが嗚咽となって漏れている。そんな泣き方だった。
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