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案内された場所は、城の北の端にある棟だった。
足を踏み入れると棟の天辺から地上に向けて魔力の吹き溜まりになっている。
ここは魔術を使うために作られた場所だということが嫌でも分かる。
渡された顔料を使って床に方程式を書いていく。
力の流れを制御して、自分の魔力がくまなくいきわたる様、世界と世界を繋ぐ様、契約の鎖が繋がる様、切れぬ様に書いていく。
魔術学校で学んだもの、魔導書に書いてあった物、自分で今まで研究をしてきたもの、狭い床面一面に描いていく。
場所が足りない。
せっかくの機会の上、今日俺が殺されるような危険に合う筈がない。
生きて城から送り出したという実績を作らねばならない為、この国で今俺の足を引っ張るような真似をする人間がいる筈がないし、魔族が城までやってくることも考えられない。
であれば、俺の魔力は全て使いきってしまって構わないのだ。
壁にも文様を書く。
部屋の中心から円を描く様に魔法陣が完成していく。渡された顔料は血の様に赤い。
純度の高い魔法石の色だ。戦闘に特化した者を呼び出すためのものの筈だ。
ようやく完成したときには息が切れていた。床に触れる足元から、文様に触れた手から、魔力が吸い取られる様にあふれ出る。
それは光になって、じわじわと魔法陣が光っていく。
赤の中に金色の光が混ざって、それがどんどんと強くなって部屋中が光に包まれる。
俺はこの瞬間がとても好きだった。
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