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最初それを見た時の胸中は驚愕なんていう生易しい気持ちでは無かった。
勇者の仲間にヴィトゥス・バランドが選ばれたと聞いた時、若手の魔術師の一部は魔術師協会に落胆したと思う。
その名前を知らぬものはいないと言えば大げさだが、魔術を研究している者にっては有名な男の名だった。
圧縮魔法を劇的に進化させた男は、その手法の所為で伝統を重んじる人間たちからは疎まれていた。それは知っていた。
けれど、こんな中途半端な時期にまるで使いつぶす前提での招集をされるのを目の当たりにするとは思わなかった。
魔術師として彼はいらないということなのだろう。
だが、能力が高いわけでもない自分が大っぴらに何かをいう事はできなかった。
最初にその話をし始めたのは、弟が魔力量が少なく彼の圧縮魔法のおかげで魔術工房に就職できたと言っていた魔術師だった。
「せめて、彼に何かしてあげたい」
と言っても、俺らの様な下っ端にできることは限られていた。
装備品は魔術師協会のものを彼が着ているという事実が広く知られることを上は許さないだろうし、金品をそのまま渡すのも許可は下りない。
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