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――「伊予の国を愛比売といひ」――
その名前は、国生みの神話に由来している。
昔は松山県やら宇和島県やらとかいったそうなので、それに比べれば随分良い名前になったと思う。
その割には明治期に登録が遅れたかせいか何かで、愛媛という名字を持つ人間は日本にいないらしい。
東京さんや大阪さんが実在するのにだ。
そういう間の抜けたところがこの県を端的に表しているようにも思える。
流れる景色に、物思いに沈む俺。
そんな感傷はしかし耐え難い叫びにかき消された。
「わあっっ!!」
「すごい!!」
「きれい!!!!」
子ども達の歓声。
窓からは、伊予灘の絶景が覗いている。
太陽の下煌めいて、まるで星空が海に浮かんでいるようだ。
幼い子供達はその眺めに刺激されたのか、自分のボックス席に収まることなくそこらをいったりはねたりしている。
綺麗な制服に身を包んだコンパニオンはそれを見て怒るでもなくにっこりと笑っていた。
俺は眉をしかめた。
観光列車「伊予灘ストーリ」。
JR四国運行の、数年前から敷設された列車で、観光客増進を見込んでのしろものだ。
松山を始点に、愛媛の西、南予と呼ばれる地方へ赴く乗り物。
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