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食べる姿まで美人は美しい。 俺はそんな目の保養にしかし首を振って 「ゆーうつなんですよ」 「憂鬱?」 怪訝な表情を浮かべる彼女。 俺は頷いて、ついでに水を喉に流し込んだ。 「今回の『コレ』、発案者が俺だって聞いてます?」 「ええ。」 猪本は首肯して 「だから野本さんが出てきてるわけでしょう?」 そうなのだ。 思いついたがために、ガキのお守と、女子大生の軽い軽蔑と、その他諸々の面倒くさい交渉まで背負うはめになったのである。 ……あの日へとへとになっていた俺が見たものは、なんであろう、あの、坊っちゃん列車であった。 坊っちゃん列車というのは、あの夏目漱石も愛した―――もといマッチ箱とか言って貶した――というか漱石松山の悪口しか言っていないのだが――列車であり、街のシンボルになっている。 もちろん漱石当時の蒸気で動いているわけではないが、外観は忠実に復元された市内電車だ。 それが俺の前をさっそう通り過ぎていったのである。 それ自体はありふれた光景なのだが、俺はそこで「はた」と思いついた。 そうだ。 文学者を使えばいいのだ。 ちなみに俺は文学部を卒業していて、別に真面目に勉強したわけでもなかったが、多少はその方面に詳しくもあった。     
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