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一部を除き自動改札もろくにととのっていないこの田舎に、そんな需要があるのかはなはだ疑問なのだが、意外なことに好評で、90%以上の乗車率を誇っている。
茜色の車体に、落ち着いた内装。
気の利いた音楽にオリジナルグッズの手渡し。
愛媛をイメージした料理の数々。
しばらくの休憩を終え、列車はまた動き出す。
ゆったりとしたスピードで、乗り心地も快適。
確かに、この県にしては中々頑張っている。
これが仕事でなく、このガキどもがいなければ俺も素直に楽しめていただろうに。
俺の不服な表情が気になったのか、県庁東予支局の猪本が話しかけてきた。
「どうしました?野本さん。どこか具合でも……」
俺は目線でその元凶を示す。
猪本は苦笑した。
「まあまあ。これも仕事ですから」
「……はあ」
再びため息。
この仕事に就くようになってからため息ばかり吐いている気がする。
隣席の猪本はどうやってこのストレスを乗り切っているだろうか。
俺の表情を巧みに読み取った彼女は苦笑して
「まあまあ。……そりゃまあ、辛いこともありますけど。今回の『これ』は、むしろ楽しいほうなんですよ。この列車にも、初めて乗れたし」
そう言ってはにかむ彼女は、素の美人さが際立っていた。
細すぎる肢体に、適度に華美なコーディネート。
彼女と出会えたことだけは収穫だったかもしれない。
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