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俺はそれでもむっつりとして、供されたみかんジュースを何の感慨もなく飲み込む。
相変わらずうるさい子供達はきゃっきゃっと嬉し気に車内を走っている。
その保護者達はというと、会話に夢中で注意という概念を忘れてしまっているらしい。
『これ」の参加者は他にもいるのだが、同じくはしゃいでいる女子大生達を除けば、どの御仁も暇そうな――もとい、紳士淑女であるためか、穏やかな目で子供らを見守るだけだ。
腕時計に目をやった。
宇和島に着くまで後一時間はある。
後一時間もこいつらと、この狭い空間にいなければならないのか……
せめて広いところに出ればこのストレスも和らぐだろうに。
つかの間の同僚として、俺の態度に見かねるものがあったのだろう。
「まあまあ。楽しみましょうよ、ね?」
にこやかな笑顔の猪本。
からかうようにグラスを掲げる彼女に、俺も不承不承ながら「カンッ」と乾杯をした。
「……おかわり頼もうかな」
「それがいいですよ。ふふ」
二人の間に大人の、目配せで会話する空気が流れる。
少し心が上向いてきた。
だが。
「大洲でございます。みなさん。左手をご覧ください」
車内アナウンスと共にそれまで鬼ごっこをしていた子供達が慌てて左手の窓に突入する。
列車は丁度大きな橋の上で止まったようだった。
見えるのは、大洲城。
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