1人が本棚に入れています
本棚に追加
その麓の河原に、甲冑に身をやつした集団がうごめいている。
何十人。
いや、下手すれば百人はいそうな群れだ。
遠目にも迫力のある、異様な雰囲気だった。
ドーンッ。
どこからか音がした。
歓声。
それに続く怒号。
合戦の再現だ。
大洲城の支配人はじまり有志が集まって、月に数回、この列車向けのパフォーマンスをしているのだ。
組み合う、のぼり旗の群れ。
上がる煙幕に、空の青さが滲む。
槍が宙を舞い、刀が何度も行き交う。
何も持たずに鎧一つで組み合う男達もいた。
とどろく悲鳴に、嬌声。
そして、パシャパシャいう保護者達のカメラの音だ。
インスタグラムにでも投稿するのだろう、子供達の次に目立っていたギャルっぽい大学生達も、きゃっきゃっとはしゃいで窓に寄っている。
それらを睥睨し、ドンっと構えている大洲城。
全てが合わさり、何ともカオスな空間だった。
少なくとも大人の恋愛が入り込む余地はない。
「あはは」
猪本は喜ぶべきなのか引くべきなのか決めかねているようで、とりあえず可憐に笑っている。
「……はぁ」
俺はため息をつき、頭を抱えた。
どうしてこうなった。
最初のコメントを投稿しよう!