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やる気はなかったといえ、松山城下、こんな雰囲気のあるところで働けるとなると、少々わくわくしたものだ。
前述したようにまあ我慢できなくはない都会が松山だし、そこそこ楽しんで暮らせると思っていたりしたのだ。
……なのに。
舐めていたのがやはりいけなかったらしい。
俺が入庁する一年前、愛媛県はどうも空回りしていたのか、議会の反対を押し切って新部署を設立してしまった。
以前は企画なんとか部の一部門だった「観光」が、部署にまで繰り上がったのである。
で、そこに東京の私大出身の俺が、恐らく経験豊富とか都会の人間の感性が分かりそうとか、なんとかそういう明らかに間違った理由で配属されてしまった。
新部署、「観光部」。
主事、野本京。
それが俺の肩書である。
あてがわれたのが企業との折衝や。
終わらないプランニング。
何か見つけてこいと喝を入れられる。
自分自身が愛媛に魅力を感じていないのに、どうやって「観光」を企画などしろというのだろうか?
それでも擦り切れたスーツを着て働くのがサラリーマン。
ワンマン電車とかいう狂ったとしか思えない仕様の電車にのって西へ東へ行きまくる。
何かないかと探し回る。
そしてへとへとになり、帰庁の道中、電停(路面電車の停留所)に立ってぼーとしていた時に思いついたのが、『これ』だったのだ。
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