学院生活編

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 礼拝堂を出る直前、後ろを振り返り祭壇を眺める。流石は貴族学院の礼拝堂なだけあって内装は新築みたいにピカピカで、正面のステンドグラスにはネフィリーナらしき女性が描かれていた。  ...ハーグ先生...行方不明なんだよな...  フレア教会にあったのと似た金細工を施された祭壇を見たら、つい思い出してしまった。  不安だった俺を励ましてくれたハーグ。知らない場所に独りで放り出される俺を勇気付けてくれた。 『ニベウス様なら、大丈夫です』  そう言ってくれたから、俺はあの時プリヒュ教会に行く腹を括れた。記憶は抜け落ちちゃってるけど、俺はその教会で上手くやれていたのだろうか。今となっては分からないけどな。 「ハーグ先生...本当に俺なら大丈夫か?」  プリヒュ教会はともかく、現在進行形でしんどいんだよなぁ...。  クラスメートからマジで嫌われてて話しかけても無視するか逃げられるし、完全に空気扱い。己のクラスで上手くやれない奴が他クラスで友達が出来る訳もなく、只今絶賛ぼっち学院生活を強いられている最中だ。  まだ一週間しかたってないのに、もう友達出来る自信がないなり。ぼっち辛すぎンゴwww  よっぽどニベウスと関わりたくないのか、皆して俺を避けるもんだから俺が教室とか廊下歩くとモーセみたいに人が捌ける。やべぇ超歩き易いやん、て誤魔化してるけど寂しいもんは寂しい。俺は無害なただのオタクなのに...。  ハーグ先生が、今の俺を見たらどんな事を言うんだろう。  行方不明でなければフレア教会に手紙を書くのに、連絡を取る術もない。  会いたいなぁ。ハーグ先生無事だと良いけど。  ステンドグラスの中で微笑むネフィリーナに視線を送る。ハーグは神官だった。なら、自分に遣えるハーグを守るのはネフィリーナの役目なんじゃないのだろうか。ニベウスのお母様とお父様は助からなかったけど、せめてハーグの事は守って欲しい。そうじゃなきゃ、どうして神として崇められているんだろう。  俺は無宗教だし、神様とかそう言うの信じていないけど、熱心に教えを説いていたハーグは加護とやらがあってもいいと思う。そうじゃなきゃ報われない。  それに、ハーグは俺にとって恩人なんだ。これ以上、俺から大切な人を奪わないで欲しい。 「スマホとかあれば、居場所解るのかな...」  ここにそんなものある訳ないんだけど、日本人ならそう考えちゃうよな。俺、持ってなかったけどね。  ぐぅ~~...  空気を読まない俺の腹の虫が盛大に鳴り響いた。  そうだよ。俺昼飯食ってなかったんだよな。腹が減ってはなんとやら、午後も授業があるし今からでも食堂に行くか。  そうと決まれば善は急げ! 俺の腹の虫は限界だと荒ぶっている。  待ってろよ、今最高級料理を詰め込んでやっからな!  と、俺は元気に廊下に飛び出し。  派手にそのままスッ転んだ。 「......」  仰向けになった俺の視界に、廊下の天井が見える。わぁーしゅご~い、こんなところにも金箔とか銀箔とかで模様作ってる~...。 「って、何でじゃああああああああ!!!!!!」  俺、絶叫。  此れまでの不運に溜まったストレスが爆発した。  勢いよく起き上がれば、俺の足元にバナナの皮が転がっている。  ま た お 前 か 。  なんなん? バナナの皮って、こんなゲームのトラップ並みに置いてあるもんなの? まさか異世界転生してチープなボケかますとは思ってなかったわ。しかも誰も居ないから笑ってくれる人も居ねーし、滑り損だっつーの。たく、金持ち学校なら掃除のおばちゃんくらいいるだろーに、なんでこんなもんが... 「...あれ?」  バナナの皮を摘まんだ俺は、そこで漸く辺りの様子に気がついた。  礼拝堂から校舎に繋がるこの廊下は、何故か生ゴミまみれになっていた。生ゴミは廊下を点々として散らばっていて、校舎の手前まで延びている。そしてそこには、一人の少女が座り込んでいた。  その子が座っている所が一番ゴミが散乱していて、彼女自身、頭から生ゴミを被ったように汚れている。  その時点で、俺はかなり嫌な予感がしていた。  俺の脳内に、ライフの主題歌が流れる。  どうしよう、此れ、見なかった事にした方がいい系? でも、そこからじゃないと校舎に戻れないし...。  なんてまごついている間にも腹の虫が自己主張をする。腹を押さえながら、俺は意を決してその子に話しかける事にした。 「...あのぉ」  そろりそろりと近づき、遠慮がちに声をかけるとその少女は弾かれたように俺の方へ顔を向けた。  少女の顔を見て一番目についたのは右目を隠す眼帯だった。緑色の左目を大きく見開き俺を見詰めている。 「えっと、大丈夫ですか?」 「......何か用...?」  一瞬怯えた色をしていた瞳は、俺に敵意が無いと解ると直ぐに細められ無愛想な返事をしてきた。  いや、用って言うか、そこ退いて欲しいと言うか...  しかし、チキンな俺はそこを退けと堂々と言える筈もなく、キョドりながらえっと、あの、としか言えなかった。我ながらキモいwww 「何よ、はっきり言いなさいよ!」 「サーセン」  ついに眼帯少女を怒らせてしまった。しかし、この子も中々気が強いな。そんな生ゴミだらけでよくそんな態度取れるよな。俺だったらこんな姿人に見られたら恥ずかしくて死にそうに...。ん?恥ずかしくて...? 「えっと、良かったら...俺の制服貸そうか?」 「......え?」  俺の突然の申し出に、眼帯少女はぽかんとしたまま呆然と声をあげた。  多分、この子がこんな状態になっているのはシンプルに虐められてるからだろう。大方、虐めっ子にゴミ箱をぶちまかれたと見える。こんな状態で校内を彷徨く事も出来ず、どうしたらいいのか分からなくて途方に暮れていたのを俺に見られてしまったって所だな。  今の会話だけでもこの眼帯少女は気が強い性格なのは解るし、そのせいで周りに助けを求める事も出来ない筈だ。しかも情けない姿を見られて恥ずかしいやら悔しいやらであんな態度を取ったんだろ。  そう思いたって言った台詞なのだが、眼帯少女は意味が分からないと言った様子で俺を凝視している。  そんなに見ちゃいやん。 「それだと校内歩き難いだろうし、上から羽織れば目立たないかなぁ...って」 「女子生徒が男子制服羽織ってる方が目立つと思うけど」  ですよねー。  男子制服は白いブレザーに青いラインが縁取られているのに対し、女子制服は同じ配色のワンピースだ。胸元に大きな青いリボンが付いていて、腰には青い紐が結ばれており、スカート部分はプリーツになっている。まさに金持ち学校のお嬢様制服って感じだ。  そんな制服の上に同じ白とは言えブレザーなんか羽織ったら悪目立ち不可避だろう。  ならどうするか。 「あ! じゃあ交換しちゃうってのはどう?」  何つって! と冗談で言ってみたらどうだ。  眼帯少女がそれだ!! と言わんばかりの目の輝きで俺を見詰めてくる。え?嘘でしょ?冗談なんだけど。 「あなた...天才なの?」 「待ってwww冗談なんでwwwそんな目で見ないでwwwwwwww」  天才っておまwww  マジで受け取らんでくれwww女装とか死んでもやらん。 「あなたが言い出したんでしょう!? 寮に戻ったら着替えて直ぐ此方に戻ってくるから貸して頂戴!!」 「え? ちょっ、待って」 「早く! 誰かに見られたらどうするの! 脱いで、脱ぎなさい!!!」 「いやぁああ! 許してぇえーーー!!!」  本気で俺の制服に掴みかかってきた眼帯少女に怯んだ俺は、涙目でそう叫んだのであった。

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