5章 愛の天秤

9/39
前へ
/39ページ
次へ
・ 夏希ちゃんの額があたしの肩に押し充てられる。 小さく微かに聞こえてくる声… 「もういいよ…切って…」 掠れた声でそう言った…… 「……、あ…多恵ちゃんごめん、ちょっと着信入ったから切るね…また今度掛けるから」 「あ、そう?じゃ、またね!そっちの土産要らないから手ぶらで帰ってきなよ?あんた貧乏なんだからっ」 「はは、うんわかった、またね」 明るい多恵ちゃんの声が途切れた── できればずっと電話掛けていたかった… 静かになった上にこの気まずい空気── 後ろから抱き締める夏希ちゃんの喉が何度もゴクリとなっているのがわかる。 たぶん苛ついてるんだろうな── 何か言いたいのを我慢してんだろうな── だから聞かずに切ればよかったんだよ… 嫌いになって別れた相手じゃなかったから… だけど元彼は大学に入ってすぐに新しい彼女が出来たと聞いた── あたしと言えば引きずったのは1年くらい…… ただ、バイトに追われ… 失恋を癒すためにちょこちょこ通った喫茶店のコーヒーに惚れて…… いつの間にかこんなコーヒー淹れられたらいいな… なんて夢ができて── 元彼のことを忘れて今に至るわけで。。。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

162人が本棚に入れています
本棚に追加