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2旅のドルイド
酒場を目の前にして少年は先ほどから立ち尽くしていた。
旅装束で小汚い身なりだが、育ちの良さそうな顔つきが目立つ。片田舎の酒場の下卑た雰囲気とはおよそ馴染まないまっすぐな瞳だ。
「こういうところ初めてだな」
店の軒先で談笑している娼婦をチラッと見た。ごくりと唾を飲み込んで意を決して前に出る。
ボロボロのドアがギィと大きな音を出した。
このドア壊れてるんじゃないかといぶかしんだが、これまでの恵まれた環境とは全然違う環境というものを、少年はこれから受け入れていかなければならない。
「こ、こんばんは」
真っ直ぐカウンターまで歩いて行き、店主らしき男に声をかけた。
「あんた、金もってんのかい」
「はい、この旅のために王様からたくさん援助して頂いたので」
一瞬だが少年の言葉のせいで店内には沈黙が流れた。温室育ちの青臭い少年はそのことにすら気づかない。
「で、どうするんだい」
「僕、お酒は飲めないので、何か食べ物を」
「おいおい、飲まないなら他所いってくれよ」
「そう言われても他に店もないですし・・・、分かりました、水を下さい。それにお酒と同じ金額を払いますよ」
「なら構わないが・・・川魚と鹿肉の塩漬けでいいかい」
「お願いします、支払いはウェールズの青銅貨でいいですか?」
「ああ、構わんよ、」
会話をすると場に慣れてくる。少年の気持ちは落ち着いてきた。
「なあ、兄ちゃん、ウェールズから来たのかい」
少年が後ろへ振り返ると二人の男が立っていた。ニコニコした男と仏頂面の男。話しかけたのは笑顔の方だった。
「ええ、ウェールズの北西部、グウィネズから着ました。」
「ほう、なんでまたそんな遠い所から来たんだい」
ウェールズ地方のグウィネズはアイリッシュ海に面するが、現在少年がやって来たビバリーは反対の北海に近い。
「この辺りでバーニシアとデイラの戦があったんですよね?それについて調べるようグウィネズのイアゴ王から命じられまして」
「そいつは丁度いい、おれらはそのバーニシア軍に食料を届けたんだぜ」
「本当ですか、では少しでもいいのでお話聞かせて頂けませんか、何か奢りますので」
「いやいや、奢りなんていらねえから、ちょいと店の外で話そうや、ここはうるせえからよ」
笑顔の男がこう言うと、ずっと仏頂面の男の顔が綻んだ。笑顔ではなく、舌なめずりをしてにやけたのである。
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