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「そ、そんな」
ベルガがエドウィンの顔を凝視する。
そしてレドワルドはゆっくりと切っ先をエドワルドへ向ける、あくまでも冷静に。
「私のことを覚えているね?」
「ああ、レドワルド、アングリア最大勢力の貴族にしてエゼルベルト王の側近だな」
先ほどまでとは打って変わってエドウィンの口がまわる。
まだ若いその身に剣を突きつけられても平然としているエドウィンに対してなにか言い知れぬ恐怖を感じながら、レドワルドはああそうだ、と息を呑みながら返答した。
「なんだ、しゃべれるじゃないか」
ライラが口を突き出しながら、ぼやいた。
「ライラっ」
ベルガは幼子を叱るように注意した。
「大陸に逃げたという噂だがな」
レドワルドがエドウィンの瞳を睨みながら問うた。
「噂は噂だよ、レドワルド」
エドウィンの不遜な物言いは王として生まれた証である。
「では、聞かせてもらおうか、このブリタニアの地にとどまり、何を望むのか」
「父が死に、妹は囚われ、多くの臣下を失った・・・ひとつしかなかろう」
「ほう、嘘もつかずそんな恐れ多いことを、命乞いもせぬのか」
「すれば、ヴァルハラに行けぬ」
エドウィンの覚悟を聞いてレドワルドも腹を括った。剣を振り上げるレドワルド。
「駄目ぇええええええ」
ベルガが二人の間に入り、レドワルドに抱きついた。
「こいつを生かしておけば戦の火種になる」
「しかし、お兄様!」
「ライラ、ベルガを抑えろ」
「離しなさいライラ、あなたはわたくしの従士でしょう」
「見ちゃいけない、外へ出ましょう、あなたに血は似合わない」
「済まぬ、エドウィン王子、これも戦国の世の習いだっ」
「気にするな、おれも父や臣下と同じところに行くだけだ」
ライラがベルガを引き剥がすとレドワルドが再び剣を振り上げた。別れの挨拶を交わす二人。
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