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主が受肉し復活なされてから数百年。
血涙と苦痛によって伝え導かれた福音が世界を照らし、邪教は滅ぼされつつあった。
しかし、数々の奇跡が示された約束の地から遥か北方の島々、かつてローマ皇帝の財源ともなったこの豊穣の大地には、異教の神々が居座り続けている。
血が・・・。
死が・・・。
いまだ足りなかった。
肉塊から剣を抜くと黒々とした血が噴出した。それは泥と混ざり、怒りと混ざり、麗しき金色の御髪(おぐし)を汚して行く。闇夜の中で松明に照らされた黄金の花が妖しく揺れた。
「勇ましき、デイラの戦士達よ!おれに続け!」
返り血を浴びつつ少年は吼えた。まだ大人になりきれていない中性的な声が戦場に響く。
「図に乗るなっ!」
臣下に鼓舞したその一瞬の隙。上段に振りかぶられた敵の剣が少年を襲う。
「ふんっ」
しかし、少年を襲いかけた敵兵は強かな呼気音と共に大斧で吹っ飛ばされた。がら空きになった敵兵の胴を薙いだのは老兵バルドである。鉈を振るわれて飛んでいった麦の穂のようになった兵士は傷口から顔をだした臓物を手で抱えながら失神している。痛みを感じずにいるだけ運がいい。
「助かったぞ」
祖父の代から仕える忠臣に礼を述べると、少年は再びその刃を敵に向けようとした。
「お待ちくだされっ!」
飛び出して行こうとする少年の腕を折れてしまいそうになるほどの力でバルドは掴んだ。
「っつ、なんだ?」
「向こうに馬を用意してござる」
「逃げよと申すか!」
「この戦、若が生き延びれば。それ即ち勝利」
「しかしっ」
ガツっ!少年の頭に突然の衝撃。
「失礼仕った」
バルドが少年を殴ったのだ。普段ならばこのようなことは決してしないが老兵には時間がない。
「若を逃がすために多くの兵が逝きました、生き恥を晒すのも王たるものの勤め!」
気迫に圧倒された少年は黙って指示に従わざるをえなかった。襲い来る敵兵に2人で対処しつつ馬を繋いである木に向かったものの、少年はそこで愕然とした。
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