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「うぅぅぅ」
日光が顔に当たると、目の前の少年は呻いた。
「息があるのですね、私の声が聞こえますか?」
「生きて、いるのか・・・おれは」
徐々に少年の眼が開いて行く。日差しが眩しいというより痛い、そう慮ったベルガは少年の顔に影をつくろうと思い、彼の瞳を覗き込んだ。男の子の顔をこんなに近くで見たのは初めてである。
「よかった、話せるほどの元気はあるのですね」
少年の意識がはっきりとし始めて、ベルガが胸を撫で下ろした。その瞬間。
「誰だっ!」
少年はベルガを突き飛ばした。
「きゃっ」
驚き目を丸くするベルガ。
「顔を見たのか、おれの!」
そう言って少年は顔を手で隠した。
「くっ」
少年は懐からダガーを抜いた。
対して、ベルガは声を出すこともできない。
「すまないっ」
少年は一息に少女の喉目掛けて突いた。
ガキィイン。
金属同士がぶつかり合う高い音が波音に突き刺さる。
「させねえ・・・させねえよ、この人だけは」
ライラがナイフで少年のダガーを弾き受けた。彼はベルガが突き飛ばされた時点で走りだしていたのだ。
「この命に代えてもなっ!」
叫びながらライラが腹を思いっきり蹴ると、力なく少年は後ろに転がった。
倒れながらも少年はなんとか顔を上げて二人を見た。朦朧とする意識、目がかすれ行くなかで。
「お前らを・・・殺す」
そうつぶやいて再び気を失った。
「全く、どんな事情でこんなことになったのか」
ナイフを収めながらライラは一息ついた。
「お嬢様、親切も考え物ですよ・・・って、なにやってるんです!」
「助けないと、まだ息があるんですから」
ベルガが再び少年のもとに駆け寄ったのを見るとライラはうろたえた。
「錯乱していただけでしょう、それに右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ、ですよ」
「打たれたらって・・・刺されかかったんですぜ!」
ライラは呆れてしまった。
「へいへい、お嬢様は大変立派な聖人君主様であらせられますよっ」
頭を掻きながらライラも介抱を手伝い始め、一応、腕と脚を縛って近くの民家に運び込むこととなった。
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