1亡国の王子

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 夕日が海を赤く染め上げる。 「綺麗ね」  と言うベルガ。 「ええ、ホントに」  血の色のようだなと思ったライラは余計なことを言う前に口を閉じた。二人は先の騒動の場へと戻って来ていた。  気を失ったままの少年は教会で面倒を見ることになり、カンタベリーに使いをだして人を呼んだ。もうすぐ来るはずだ。少年の介抱を手伝わせた近所の婦人に礼を出そうとライラは申し出たが、その婦人は固く固辞した。  ベルガが行き倒れの者を救った。その慈悲深い御心に自分もあやかることができた。それだけで十分だそうだ。 夕日を見ていると穏やかな気分と侘しい気分が交錯する。ライラは過去を思い出していた。  奴隷だったが、たまたまベルガに救われたライラ。自分はあとどれくらい生きられるだろうか、そんなことばかり考えていたあの頃。お嬢様がいなければ、おれは今何をやっていたのだろうか?  あの馬鹿な少年と自分は同じようなものだな。  忠義と恋慕の狭間で悩むことはもうとっくに辞めた。辞めたはずだがあの馬鹿のせいで昔のことを思い出しちまった、昔の感情とともに。  お嬢様が幸せであれば、笑顔であればそれでいい。そう思えるようになるまで時間はそうかからなかった。それほどまでにお嬢様はあまりに美しく神々しかった。身分が違うとかそういう話ではなく、自分がどうこうしていいような人ではないのだと。 「ん?」 「どうしました。、ライラ」 「そういやアイツのダガーはどこに飛ばされましたかね?」  キョロキョロと辺りを見回すライラはすぐにそれを見つけた。 「名前が書いてあるかもしれませんね、盗んではいけませんよ」  小言を言いながらベルガはダガーを拾うライラに近づいた。 「ん、どこかで聞いた名だな」 「何という名です?」  ライラはダガーの柄に刻印された名前を読み上げる。 「エドウィン・・・だそうです」 次回予告 レドワルド 「偶然のボーイミーツガール、麗しき姫君と悲劇の美少年、七王国の戦乱と勃興。甲源太郎が贈る王道まさに王道のブリティッシュ・スペクタクル!『ブレトワルダに祝福を』、略して『ブレ福』ここに誕生。 祖国を奪われた王子エドウィンは、一目惚れしてしまった王女ベルガは一体今後どうなるのか? 信仰と戦争、揺れ動く乙女心にエドウィンの言葉が突き刺さる。 次回、『旅のドルイド』・・・・・・え、私が誰かって?次回まで待て!」
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