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「姫、そのダガーは今どこに」
「ライラが持っています、ちなみにライラも聖堂にいて彼の看病をしていますわ」
意を決してレドワルドが尋ねたが、ベルガは軽く答えた。
「陛下、明日、私が行って様子を見てきますよ」
「ああ、頼むぞ、レドワルド」
「もう、お父様もお兄様もなにをそんな神妙な顔をなさっているのです、デイラのエドウィン王子はフランクへ逃げ延びたのでしょう、彼はエドウィンの身内かなにかですよ、きっと」
「ベルガ、黙っていなさい」
母ベルダは即座に娘を叱った。男達の政治の話に女が口を挟むべきではない。そんな信条をもつが、娘はそれで収まる性分ではなかった。
「わたくしも行きますわ」
ベルダの言葉にレドワルドはやれやれと微笑んだ。
「まったく、酷いな~、話をしてくれるって言ったのにいきなりお金を盗ろうとするなんて」
「ひっひぃいいい」
「そんなお化けでも見たような声出さないで下さいよ」
酒場から出ると笑顔だった男の態度は急変した。旅の少年をつき飛ばすとナイフを突きつけたのだ。
世間知らずなお坊ちゃんが大金持って遠出してきたということは、盗ってくれと言っているようなものである。
ちょろい仕事、二人の男達はそう思ったに違いないが、どうやら相手が悪かったようだ。「なんだ、なにしやがったんだ」
「ちょっと、ナイフに小さな雷を通しただけですよ、、軽く脅かしただけなのに大げさだなぁ、もう」
旅の少年はフフフッと微笑んだ。
「てめえ、なにもんだ」
すると仏頂面の男がやっと口を開いた。
驚いたのも無理はない。二人で路地に囲った少年にナイフを突きつけた。
どう考えても絶対有利な状況だったはずなのだ。
しかし、旅の少年は表情を一切変えずになにか呟きながら、目の前で今にも襲ってきそうなナイフを右の一指しで指した。
ただ、それだけ。それだけで状況はひっくり返った。
笑顔だった方の男の目にナイフの激しい閃光が突き刺さると、その握る手に焼ける様な痛みと強烈な痺れを味わったのである。であるからして、先ほどのその風貌に似合わない乙女のような悲鳴にも頷けるというもの。
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